あしなが育英会の学生寮、あしなが心塾(東京都日野市)は、地方に住むあしなが大学奨学生が、首都圏への進学を実現するために用意されている学生寮です。仲間とともに共同生活を送りながら、時には衝突したり、時には喜びを分かち合ったりして、切磋琢磨する場所です。その心塾で暮らしている本田大貴(ほんだひろき)さんにお話を伺いました。
父の死、全寮制の高校、そして大学
自分は、中学に入学する直前、12歳の3月に父を亡くしました。父は1級建築士で、建築の個人事務所を経営していました。父はいくつになっても少年みたいな人で、破天荒なところがあって、豪快で、言うことがおもしろくて、でもずっと勉強もしていた人で、尊敬しているし、今でも大好きです。自分は父と似ているなと思います。
そんな父が急死して、自分は強いショックを受けました。自死でした。家はずっと貧しかったし、会社も大変だったのかな、と想像できます。自分は子どもで事情は分からなかったけれど、父が亡くなる前に何か声をかけられたんじゃないか、何か行動を起こせたんじゃないかという後悔がずっと心の中にあります。
そういう後悔や、悲しみが影響したのか、中学2年の後半から学校に行けなくなりました。中学3年になってもゲーム三昧で昼夜逆転の生活。時々、母の財布からお金を抜くような、自堕落な生活をしていました。そんな自分を見て、「この子の生活を立て直させなくては」と母も考えたのだと思いますが、三重県にある全寮制の高校に進学することになりました。ダウンタウンの浜田雅功さんの出身校として有名なところです。
山奥での寮生活で、外出は月に1度だけ。生活するのは体育館みたいに大きな20人部屋という環境。いわゆるやんちゃな子や、不登校の子が集まる高校でした。先輩、後輩の上下関係にうるさく、規則も厳しい学校でした。でも、自分はいい友だち、いい先輩、いい先生に恵まれて、最高に楽しかったです。内向的な性格も徐々に変わっていきました。野球部のキツイ練習で汗を流して、高校1年生の秋からは、本格的なマッスルトレーニングも始めました。身体を鍛えると、不思議ですが自信が湧くんです。
高校を卒業したら働こうと思っていた時に、恩師が大学進学を勧めてくれました。勉強が好きだった先輩の影響も受けて、高校3年生にして初めて勉強に向き合いました。
東京都内の大学の法学部に合格、上京、心塾に入塾となったわけです。
2度の海外研修と徒歩でのひとり旅
高校の寮生活が、荒ぶる男子ばかり20人の部屋だったので、心塾に入塾するときも、相当の覚悟と「東京だろうと絶対に負けねぇぞ」っていう気概でやってきました。目は血走っていたと思います。ところが、心塾に来てみたら、み~んないい人。寮棟は綺麗だし、4人部屋という快適さ。職員も優しくて、拍子抜けしたというか、安心したというか。
大学1年生の時には、あしなが育英会が主催する海外短期研修に2回参加しました。
1度目はフィリピン、2度目はアフリカのウガンダです。事前の課題が多いし、英語に不自由して大変な思いをしましたが、海外での研修は人生を大きく変える転機になったと思います。今は、来年度のウガンダでの1年間の長期研修に参加することが目標です。そのために、英語の勉強にも身が入るようになりました。就職しても、海外で働きたいと思っています。
本田大貴さんのウガンダ研修の様子は、あしなが育英会のウェブページにある「あしながメディア」で紹介しています。記事はこちらから。
人情に触れた6日間の徒歩旅
海外で刺激を受けたせいか、日本にいても、もっと何かにチャレンジしたいなぁという気持ちが湧いてきて、今年の3月、東京の心塾から、愛知の実家まで300キロを歩いて帰省する旅に出ました。
目標は300キロを6日間で歩くこと。1日50キロを目安に歩く計画です。持ち物は、パンツ2枚、タオル1枚、寝袋にモバイルバッテリー6個、パソコン、以上。着替えはなし。初日は夜の9時に出発して、翌朝の5時まで歩きました。橋の下で眠り始めたら、2時間くらいで警察官に起こされて、またすぐに歩き始めました。神奈川のトンネルを通り抜けたとき、目の前にバン!と富士山が見えたのには感動しました。
自分は、筋肉にも足腰にも自信がありましたけれど、3日目になるとさすがに疲れが出てきて、足が痛くなりました。筋肉痛ではなく、神経痛のような痛み。富士山を眺めながら、足を引きずるように歩き続けました。好きな音楽を聴いて、いろいろなことを考えながら、どうしてもつらい時には友人と電話で話をしながら、歩き続けました。3日目の午後、今度は目の前にパーっと海が開けました。それもまた感動でした。後半は、薬局で買った痛み止めを飲みながら歩き続け、とうとう300キロを歩き切りました。予定通り、6日間で踏破できました。実家の最寄り駅に着いた時、初めて母に電話して、「今、近くまで来てるから迎えにきて」と言いました。迎えに来た母は、自分が歩いてきたことよりも、自分があまりにも臭いことに驚いていました(笑)
6日間歩き続けての発見は、まさに「日本」でした。ひとりで歩いていても襲われないし、野宿しても大丈夫、という安全な国。いろいろな場所で出会った、人の温かさ。御殿場に向かう長い長い登りの坂道では、1時間ほど車に乗せてくれる人がいました。磐田市では、おばあちゃんがミカンを分けてくれ、雨宿りさせてもらった工場では、お茶をごちそうになりました。自販機の前で休憩していたら、バイクに乗っていた人と仲良くなって、「今度飲みに行くか?」と誘われました。友達がひっきりなしに電話をしてきて、励ましてくれました。当時好きだった女の子からも「頑張って」って言ってもらえました。富士山も、海も、すごく美しかった。すべての景色が美しかったです。夜になると寂しくなったけれど、本当にものすごく楽しい6日間でしたよ。足の痛みは1ヶ月くらいで完治しました。もう大丈夫です。
後輩のみなさんへメッセージ
大学に入れたおかげで、自分はいろいろな経験ができています。海外研修へ行く機会を得たり、歩いて旅をするなんていう時間を持てたりしています。今は、長期の海外研修を含めて、興味あることをかたっぱしからやっていきたいと思っています。あしながさんには、本当に感謝しています。心塾に住んで思ったのは、共同生活は学びの場。いろいろな人と出会って、いろいろな人から話を聞くことができます。自分はこれからも、全力で頑張ります!みんなもガンバレ!