農業高校から国立大学である弘前大学に進学し、現在は社会人1年目の髙橋久美さん。人材育成プログラムや給付型奨学金などを手がける非営利団体で勤務されています。そんな彼女は当初は全く進学を考えていなかったと言います。どうして進学を決意したのか、資金や保護者の説得はどのようにしたのかを伺いました。
今回のインタビュアー
髙橋さん、よろしくお願いします!簡単に自己紹介をお願いしてもいいですか?
髙橋さん:髙橋久美と言います。埼玉県で生まれて、岩手県で育ち、大学は青森県でした。だんだん北上して育ちました。岩手県の農業高校から、青森県にある弘前大学に進学して、現在は一般財団法人教育支援グローバル基金というところで新卒として就職して、お仕事をしています。
よろしくお願いします。一般財団法人教育支援グローバル基金さんは、ビヨンドトゥモローというプログラムが有名ですよね。人材育成プログラムや給付型奨学金を手掛けていらっしゃいます。髙橋さんは農業高校から国公立大学に進学したとのことですが、なぜ農業高校へ進学することを選んだのですか?
髙橋さん:当時はまだやりたいことが明確ではなかったので、大学進学が前提の進学校に行くイメージはありませんでした。一方で、机上の学びだけでなく、外で作業をしながら勉強している自分の方が想像つきました。そのときに漠然と興味を持っていたのが、農業と国際協力でした。7つ上の姉が通っていたのが農業高校というのもあり、岩手県内の農業高校に進学することに決めました。
そうなんですね、ご実家が農家だったり、農業関係のお仕事といったわけではなかったんですね。農業高校はどのようなことを学ぶのでしょうか?
髙橋さん:私の学科では、農作物と家畜の世話が主でしたね。高校3年生になると、研究班というのに分かれるんです。班では、自分たちで仮説を立てて1年間かけて実証していきます。私は無農薬・完全手作業で稲作を手がけました。田植えや雑草取り、稲刈りはもちろん、脱穀などの精米作業も手作業で行いました。
全部手作業は大変そうだな~。そのような勉強をしていく中で、周りのクラスメイトたちはどのような進路を選ぶのでしょうか?
髙橋さん:工場だったり、スーパーの販売員や農業土木の会社、あとは農協ですかね。大学進学者はクラスで2人くらいだったと思います。
2人ですか!?周囲の環境として、進学が一般的ではなかった中、どのようにして進学を決めたんですか?
髙橋さん:高校1年生のときは普通に就職しようと思っていました。漠然と国際協力や途上国の農業に興味があったので、学外のイベントに参加したりしました。そんな中、ある日先生が「これも参加したらどうか?」と教えてくれたのがビヨンドトゥモローの活動だったんです。ビヨンドトゥモローではリーダーズサミットや海外研修などのプログラムに困難な経験をした学生が集い、お互いの境遇を共有しながら当時者目線で社会課題を考えていく活動をしています。そこでは、各界のリーダーだったり、私は当時わからなかったのですが、有名大学の学生たちと話す中で、圧倒的な差を感じたんですよね。別に大学に行かなくてもやりたいことはできると考えていたんですが、学問の積み重ねがないと見えない視点もあるということを知って、勉強したいと感じました。
そこから、どうやって志望校を選んだんですか?
髙橋さん:まず最初にどこに行きたいかを考えたときに、東京農業大学だったんですよ。「キラキラしてて良いな~」と思ってたんですけど、学費も負担になりますし、高校の先生に「もっとちゃんと調べなさい」と安直な思考回路を指摘されてしまいました。条件を洗い出して考えたのは、①国公立であること②寮があること③国際的な視点で農業を学べる学部があることの3つでした。調べたところ、弘前大学があったんです。進学したいと思いました。
進学先を決めたあと、保護者の方の受け止め方はどうでしたか?
髙橋さん:家にお金がないかもしれないというのは雰囲気で感じ取っていましたし、母親からは「ダメダメ」と言われてしまいました。「進学したい」としつこく交渉すると、母に「まず私を説得してから行きなさい」と言われてしまいました。
いやぁ~、進学に立ちはだかる壁が厚いな~。もし親に反対されたのなら僕は諦めてしまいそうです。
髙橋さん:それが、私の受け取り方が間違っていたのかもしれませんが、「説得できたら進学して良いってことなのか!」と、とっさに思ったんです。じゃあ説得してしまおうと思って、進学の意志を行動で示すことにしました。作文コンクールに応募したり、JICAデスクに行って話を聞きに行ったり、課外の活動を増やしました。最終的には、渋々ではありましたが「不合格だったら公務員になる」という条件付きで、受験することを認めてくれました。なので、公務員試験の勉強も並行して進めなければなりませんでしたね。大学生になることが目的ではなく、学びたい弘前大学に入学することが目的だったので、弘前大学のみ受験しました。進学後に必要な資金については、担任の先生からJASSOの貸与型奨学金を教えてもらって、申し込むことができました。
お母さんから言われた一言の捉え方ひとつで、進学するかどうかが決まるなんて…国公立一本勝負なのも大変だし、公務員試験と両立はなおさらでしょうか。そんな中、先生が奨学金を教えてくれたのは大きな後押しですね。当時は給付型奨学金がありませんでしたが… 進学後はどうでしたか?
髙橋さん:いろいろな出会いを通して、進学する必要性を感じた高校時代でした。両親からの反対を乗り越えたことも、進学の必要性を常に意識するきっかけになりました。そのおかげもあって、大学進学後に学びのモチベーションも途切れませんでした。
そうでしたか、進学を考えていなかったからこそ、学ぶ意味を明確に見出せたんですね。あしながBASEを読んでくれている人の中には、進学を考えていない高校生もいます。アドバイスはありますか?
髙橋さん:岐路に立った時、「将来の自分に言い訳をさせない」ということを考えます。私はいろいろな巡りあわせから進学する道を選びました。その間に就職した友人たちは同じ若さで、私には得られない学びを得ていました。自分の中に理由がなければ、進学をしても就職をしてもそこでの楽しさや学びは半減してしまうように思います。是非、一番理想的な自分を思い浮かべて、そこでしか得られない学びや楽しさでキラキラしていて欲しいと思います!
進学はしたいんだけど、費用や家族のことなど様々な理由で進学を周囲に反対されている高校生のみなさんもいらっしゃいます。
髙橋さん:私は両親から進学を反対されてきましたが、約1年に渡る説得活動という経験に本当に感謝しているんです。反対されなければ、自分の中に理由を見つけられなかったからです。誰かの心を動かすほどの理由は、生涯大切な自分の意志になりました。「Kites rise highest against the wind – not with it.」という言葉のように、向かい風は私たちを高く昇らせてくれるものだと信じて、そこからしか見れない景色が見れたらなと思います。
素敵な言葉ですね。髙橋さん、ありがとうございました。